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「コウ、サイ、頑張って!あと少しよ!」
テラが度々振り返りながらコウとサイに声をかける。二人の少女は一所懸命足を動かすものの既に息が上がり、喉から漏れる苦し気な音が痛々しい。思いの他遅い動きにもどかしさを感じながら、ソウは二人に続いて階段を駆け上がった。山で育ったソウにとって階段を登るという作業は容易い。しかし、を平たく狭い鉄炉の土地の中だけで暮らす姉妹には、とてもきついものだった。物心ついてから今までの人生、そのほとんどを厨房の中で生きてきたコウ、そして、サイ。階段を登るということどころか、そもそも二人にとって走るということそのものがほとんど初めての経験だったのだ。故郷の山を自由に走り回って育ったソウは、見上る二人の背中に改めて悲しみのようなものを感じていた。
ようやく、台地の縁に到着してへたり込むコウとサイ。後から駆け上がって来たソウは、二人の様子をちらりと見たものの、すぐに台地から顔を出して崖下をのぞいた。。ケンとリョウがラウトを抱えて階段を登ろうとしているのが見えた。階段下ではリキが後ろを警戒して剣を手にしている。そしてやや離れた兵の宿舎に目を向けると、何人もの屈強そうな影がわらわらと出てきてこちらに駆けて来るのが目に入った。
「悪いけれど、兵が来る前に行くよ」
ソウは立ち上がれないでいる姉妹に声をかけた。そして心配そうに二人の背中をさすっているテラに、台地の縁から離れた所で松明を高く上げるように即した。下の兵に見つからないように、そして、待ち受けているはずのガリが見つけやすいように考えてのことだった。
「河の下流に向かえとリキが言っていた。こちらだ」
ソウは東の方を指さした。その時、自分自身が指さしたその先の夜空に星が瞬いていることにソウは気が付いた。常に炭焼きの煙が充満していて、月すらも滅多に見ることのできない鉄炉。そこから僅かに崖を登っただけのこの台地上で、星が見えるのだ。ソウは北の空に浮かぶ動かない星を探した。すると、遠く離れた先に影の帯が見えた。炭になる材木を伐り出している森がそこにあった。そよ風が吹いた。森の匂いがしたような気がして、ソウはなんとも言葉にできない解放感に満たされた。
「ソウ、どうしたの、行くのでしょう?」
「う、うん」
テラに言われて我に返ると、ソウは一度だけ鉄炉の方を振り返った。そして、心を決めて走り出した。
『ラウト、もうすぐだよ。星を見れば、あっという間に元気になるさ。先に行って待っているからね』
ソウは心の中でつぶやいた。
しばらく走ると地平線上を揺れる小さな炎が目に入り、近づいて行くと松明を掲げる細い人影が見えてきた。ガリだった。
「ガリ」
懐かしくなってソウは一気に駆け寄った。
「おう、久しぶりだな。なんだ、ソウとテラ、あとは女の子か。リキ親分はどうした?」
「うん、すぐ来るよ」
ガリの問いに軽く返事をしたソウだった。だが、いくら待ってもリキはおろか、リョウ、ケン、ラウトら三人の誰一人現れることはなかった。
つづく
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離され島冒険記 (冒険小説)
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