草原のチャド1-1.誕生

草原のチャド

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700万年遡る、人が人になる前の遠い昔の物語です。

その朝、赤ちゃんが生まれた。こげ茶色の毛で全身を覆われた小さな赤ちゃんは、地平線から顔を出した太陽の最初の光を一身に浴びて、まるで輝くようだった。母親はその子をチャドと名付けた。

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体が小さいうちは、チャドはいつも母親のお腹に手を回して、逆さにへばりつくようにして移動した。餌を探す時も、遊ぶ時も、眠る時も、いつも母親と一緒だった。チャドの頭の毛は、他の仲間よりやや薄い金色に近い色をしていた。そしてその毛は寝癖のように跳ねていたので、母親がお腹に金色の刀を抱えているように見えたものだった。

チャドの最も古い記憶。それは餌を求めて木から木に渡る母親のお腹から見た景色だった。木の葉のすき間から射す緑色がかった木漏れ日のキラキラ輝く光を見て、「きれいだな」そう感じた時のことをチャドは今でも覚えている。

森と草原の境付近にチャドと母親が属する集団はいた。年取った者も若い者も、お互いに助け合いながら暮らしていた。彼らは手足の力が強く、器用だったので、木が多く茂っているところでは、木の枝から枝へ伝って移動し、木の少ない所では、両手のこぶしを地面につけて、体を支えるようにしながら歩いた。

年をとった仲間には知恵があった。彼らは周囲に潜む危険に敏感だった。地上の、特に森のすぐ外側の草地には四本足で歩く危険な猛獣がしばしば現れた。彼らは大きくて鋭い牙を持ち、気まぐれだった。寝そべってただ眺めているかと思うと、猛然と走ってきて仲間を襲ったりした。チャド達がどんなに急いで走っても彼らの足にはかなわない。生き残るためには、手近な木に登ってやり過ごすしかない。捕まって食べられてしまうかどうかは運次第だった。

樹上にはまた違う危険があった。じゃれ合っていた友達が、突然目の前から消えるという経験をチャドもしたことがある。びっくりして周囲を見渡すと、大きな鷲に頭をつかまれて、だらっと手足を垂らして遠ざかっていく友達が目に入った。そんな時チャドは、ただただ震えていることしかできなかった。鷲がチャドではなく友達を選んで襲ったのは、なんのことはない、たまたまそうなっただけのことだった。そんな危険を少しでも避けるには、年寄りの存在が欠かせなかった。彼らは常に周囲に目配りをして、危険を察知すると鋭い声を出して警戒の呼びかけをしてくれた。どんなに遊びに夢中になっていても、その声が聞こえた途端に子供達は警戒態勢に入るようになるのだった。

若いオスの仲間は主に力がいる仕事を担当した。弱い者や小さな者ではとても登れないような高い場所にある食べ物を取って来てくれたり、別の集団と餌の取り合いになって戦わなければならない時などは、主に彼らが相手をした。メスを守るのも彼らの役割の一つだった。猛獣に追われるメスを逃がすために囮になり、逃げきることができないまま代わりに食べられてしまう若いオスをチャドは何度か見たものだった。

若いメスは子を産み、育て、また生む。少し年をとった子育て経験豊富なメスは、子を産んだばかりで自由に動き回ることができない若いメスの代わりに餌を取って来てやったり、子育てを手伝ったりするのが習わしになっていた。

(続く)

成長

誕生

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