PROJECT BABEL a-2

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「宇宙エレベータは60秒後にGRAND FACILITY通過、テザー先端部遅れ111.64キロ、プラス15秒でGFA上空到着」

「了解」

地上にいるヨーコと飛行士アキラが頻繁に交信している。

「テザー高度1,000m、最終降下開始」

アキラがエレベータのスイッチをオンにする。

「高度800、600、400、200、100、エレベータ停止」

すぐさまアキラがスイッチをオフにする。

「高度50.342m、目標高度到達」

接続まで泣いても笑っても残り1分弱。陸上中距離走競技一回分の後には結果が出るのだ。この日この時間帯に合わせて、全世界において航空機の赤道上空通過が禁止されている。失敗したからもう一度とは、簡単にはいかない。

「鳥さん、鳥さん、コースを横切らないでいてくれよ」

アローンがアキラの横でつぶやきながら手で十字を切った。

「テザー先端部、目標緯度とのずれ、現在0度0分0.8740秒、問題なし」

映像と数値データを見ながらアキラがブースターを微調整する。

「0.6653、0.4839、0.2711」

「おいおい、充分だろう!お、見えた!」

モニターに映ったV字型の建物を見てアシュケナージが声を発した。GRAND FACILITYだ。秒速8キロメートルで進む宇宙エレベータとそこから吊り下げられているテザーの先端なのだ。見えた途端に目標を通り過ぎていることになる。そして、見えたということはテザー先端部にあるモニターが建物を捉えたということであり、その進路が正しい証拠だった。

「接続、…確認」

スピーカーからヨーコの声がした。

「第一エレベータ、上昇開始」

「了解」

アシュケナージの返事が別のスピーカーから聞こえてきた。

直後に振動が伝わってきた。ロケットの先端部そのものである第一エレベータのブースターが点火されたのだった。

「Good bye」

アローンとアキラは天井を見上げて軽く手を上げた。

「さて、あとは地球が追い付いてくれるのを待つだけだな」

アシュケナージが第二エレベータ部の微調整用ブースターをオフにした。軽い振動が宇宙エレベータ内に長く続く。アキラが大きく息を吐いた。大任を成功させた安心感が顔から読み取れた。この時になってようやく、二人の飛行士は自らの進退が重力から解放されたことに気が付いたのだった。

 

遡ること数年、国際会議場に老物理学者の声が響き渡っていた。

「三つの施設を宇宙で運用、そして、地上には巨大な受紐装置。君はこのプロジェクトにいったい幾らかかるのかわかっているのか」

やれやれといった感じでデイヴィッドは立ち上がった。

「およそ100億ドル程度、どんなに失敗が重なったとしても200億ドルを超えることはありません」

デイヴィッドは当たり前だろうと言わんばかりに落ち着いた声を発した。

「ばかな。君は寝言を言っているのかね。そんな金額が集められると本気で考えているのではないだろうな?」

老物理学者の言葉に、周囲を取り囲む出席者もそれぞれがお互いの顔色を確認しつつ相槌を打った。

「たった100億ドルでいつでも宇宙に物を運べるようになるのです。世界の軍事費が2兆ドルを超えている現在、それほど大きな金額だとは思えないのですが?」

デイヴィッドの返事を聞いて、会議に集まった学者達は隣同士で議論を始めた。

「平和を維持するための軍事と、不要不急の宇宙開発とは違う。そんなこともわからんのか、君は」

老物理学者は言った。そして、話にならんというように椅子の背にもたれかかった。

「なるほど、そんな金額が集まるはずないとおっしゃるわけですね。では博士、私が幾ら集めたら実現可能だとお認めいただけますか?」

デイヴィッドはわずかに身を乗り出して言った。

「そうだな。一人で10億ドル集められるなら、信用してやろう」

話しをするだけでも疲れるとでも言いたげに、老物理学者は目を瞑ったまま答えた。

「わかりました。それでは今すぐクラウドファンディングを立ち上げてみましょう」

デイヴィッドはタブレットを操作し始めた。場内の大きなスクリーンにクラウドファンディングサイトのホームページ画面が映し出された。

予め用意してあったらしく、速やかにプロジェクトが立ち上げられ、支援者と支援金の募集が始まった。

「失礼、何人かにメールで知らせることにします」

デイヴィッドは更にタブレットを操作した。

「ちょうど午後3時です。お茶でもいただきながら待つことにしましょう。

デイヴィッドの表情はあくまで冷静だった。

 

30分後、支援金額は募集金額を遥かに超えて、既に50億ドルに達していた。

「ばかな、こんなことがあるわけがない」

老物理学者は顔を上げることすらできず、弱々しくつぶやいた。

「誰よりも宇宙物理学に精通しているあなたもビジネスについては素人同然なのですね」

デイヴィッドはテーブルの上で手を組んだ。その姿には自信が漲っていた。

「世界の企業トップがなぜ宇宙に行きたがるのか、ご存じないのですか?地上の物理的災害、幾多のハッキングから逃れられる場所に、彼らは自分達の情報、つまりサーバーを置きたいのです。それも何よりも安全な方法で」

デイヴィッドの言葉を遮ることにできる人間は、そこには誰もいなくなっていた。

 

続く

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