離され島冒険記第三部「国興」a-4帰郷4

離され島冒険記第三部「国興」

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鉄作りについて村で話し合ってもらえるように僕は父さんに頼んでいた。しかし、本来この初夏の時期は食べ物採取に忙しい。村全体が集まるほどの会合そのものが中々開かれない。その上、村の有り方そのものを変えていこうという働きかけである以上、村と距離を保つテラの一家と同調する人々も話し合いに加わってもらう必要がどうしてもあるのだ。その人達の中には村に戻りたいと考えている人も少なからずいる。そのような人達を通して何度か誘いをかけたにも関わらず、返ってくる返事は芳しくない。ことが進まないまま季節だけが夏に移り替わろうとしていた。

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天にただ一つ存在する動かない星。僕らが建てた星の塔からはその星が良く見えた。男衆が夜になると村の集会所に集まるように、僕らは度々星の塔に集まって語り合った。コウとサイは、鉄炉では見ることのできなかった満天の星々に囲まれる度に言葉無くただじっと夜空を見上げるのだった。朝から晩まで働き詰めだったこの姉妹は、僕らの村に来て初めて周囲を気にせず遊ぶという子供らしい時を過ごしていた。当初、落ち着かない様子の二人だったが、今では朝の食器洗いや洗濯を済ますと山菜を摘みに来がてら大地に立ち寄り、夕餉の後になると再びやって来て、僕らと共に星を見るのを楽しみにしていた。コウはケンと、サイはソウと会えるという喜びもあるようだった。僕本人はと言えば、相変わらず一度として顔を見せることのないテラのこと、そして、進展の無い鉄作りについて焦燥感が募るばかりだった。

そんなある晩のことだった。いつものように皆で星の塔に登り、あーでもないこーでもないと先々の事を話している時のこと、突然、夜空に閃光が走った。ラウトが右手を上げる間もなく、僕らの真上を通ったその光は森の向こうに消えていった。すると光が消えた先から大きな音がすると共に、振動が伝わって来たのだった。

「流れ星だ!」

ソウが言った。

「近いよ。行ってみよう!」

ラウトが立ち上がりソウと連れ立って塔を降り始めた。

「待って」

ケンが二人を止めた。そのままケンは星の観測装置を操つり、流れ星が消えた方向を見定めた。離され島を脱出した時の筏につけていたものと同じ装置だった。

「流れ星はこの真上を通った。ということは、この装置が指し示す方向に向かえば、必ず流れ星が落ちているということだよ」

落ち着いた声でケンが言う。

「そうだね。朝になって方向を確かめてから探しに行くことにしよう」

僕はケンの言いたいことをくみ取って続きを話した。

「誰かに先に発見されたらどうするのだよ」

不満そうにソウが言う。

「夜の闇の中でそうそう簡単に見つかるものではないよ」

ケンが言い返す。

「よし。今日は今すぐお開きにして、明日、夜明けと共に流れ星を探しに行こう」

僕は手拍子を打って今夜の解散と早朝の出発を皆に言い渡した。

ケンが指し示す先には遠く山の峰があった。その峰を目指して歩き続ければ、そこには流れ星が少なくとも痕跡位は見つかるはずだ。薄青い朝靄の中、僕らは出発した。ケン、ソウ、ラウト、そして僕の四人での探検だ。こうして四人で歩いていると、離され島で生活していた頃の事を思い出す。すると、不思議に気分が高まってくることに四人共が気付いていた。皆、理由もなくにやにやしていたのだ。

「まったく男の子って」

ここにテラがいたらそう言っただろう。夜明け前にコウとサイがこっそり渡してくれた干し魚を腰に下げて、僕らは道なき道を急いだ。赤い光を放っていた太陽が、上空に登り、強い夏の光を放ち出した。覆いかぶさるように茂っている木々の葉が緑色に輝いている。太陽が真上に達っしようとする頃、竹筒に入れた水が底をつき、僕らは湧き水を探して休みを取ることにした。周囲を見渡し尾根を見つけると、その形から川のありそうな場所を探す。運の良い事に進もうとしていた方向に川があるようだった。川があれば、その上流には必ず湧き水があるということだ。僕ら四人は足を速めるのだった。

何とか湧き水を見つけて、一息ついた時だった。

「何か、焦げ臭くないか?」

ソウが言った。最初、持ってきた干し魚の匂いかと思ったのだけれど、どうもそうではないようだ。急いで魚を食べ終えると、臭いのする方に向かって僕らは走った。走らずにはいられなかったのだ。いくつかの段差を乗り越えると焼け焦げた樹木があり、僕らは立ち止まった。そして、川沿いにある妙な窪みを見つけたのだった。それは二人並んで両手を広げるほどで、表土の様子からすると抉れてからそれほど時が経っていないようだった。隣を流れる川の水が既に流れ込んでいて、真ん中で緩やかな渦を描いている。最初にソウが中に降り、ラウト、僕、ケンと続いた。澄んだ水が滞留していて、底は薄黒い砂とも土とも言えないようなものが積もっているようだった。いても立ってもいられなくなって、最も深い辺りにソウが右手を突込んだ。僕らは固唾を飲んで見守った。ソウは肩まで水につけて深い部分を探っている。腕が水の中でうごめき、澄んでいた水が黒く濁っていく。何かを掴んでソウが手を引き出そうとした。しかし、意外に重かったらしく、身体まで水の中に入り左腕を徐々に沈めていった。ざばーっという音がして、ソウが両手を頭上に持ち上げた。その手にはがっちりと黒い塊が掴まれていた。ケンも僕も、一目で何なのかがわかった。それは鉄塊だった。流れ星の正体、それは鉄の塊だったのだ。

「これ鉄だよね?ってことは、リョウ、これを溶かせば剣が作れるってこと?」

ソウが言った。ラウトも同意を求めて僕の方を見た。

「うん、作れるよ」

僕は答えた。そして、ケンを見た。ケンも僕を見てうなずいた。

「ただ、それだけではないのだ。その黒い砂。それ、砂鉄だ。ここは剣を作る材料に満ちている」

続けて僕が言うと、ソウとラウトは顔を見合わせた。二人の目は輝いていた。

「流れ星が落ちて、地面が抉れ、そこに水が流れ込むことで土が取り除かれた。土より重い砂鉄だけが流されずに残ったのだ」

ケンはここで起きたことを即座に理解して僕らに教えてくれた。その言葉を聞きながら、忘れかけていた記憶が甦ってくることに僕は気が付いていた。大陸を出て海を渡り、行き着いた土地。夜空にある動かない星を目印に陸路を進み、山裾にある僕らの村を目指して川沿いを登る。その旅の途中で僕らは龍に出会ったのだ。あの時の恐ろしさが甦ってきて、僕は身震いした。それは地を這う龍だった。僕にはわかった。ここにも龍がいたのだ。そして、空を飛ぶ龍と地を這う龍、二つの龍が出会った。それがこの場所なのだ。再び澄みつつある水面に太陽の光が射した。底に沈む砂鉄の色を帯びたきらきらとした輝きが龍の落していった鱗のように感じられたのは、僕だけではなかった。

つづく

離され島冒険記第三部「国興」a-5帰路1

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