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村を離れて三度目の冬を迎えていた。故郷の島に帰っていたラウトが龍ヶ淵に戻って来た。ケンの妹であるハナと結婚することになったラウトは、故郷で一人暮らす父親にハナを紹介しないわけにはいかないとして、夏前にハナを連れて出発していた。僕らはラウトとハナは戻って来ないだろうと半分諦めていたものの、雪で道が隠れてしまう前に戻って来たのだった。僕らは大慌てで彼らが住むための家を建てた。始めに建てた二軒の家を含めて、龍ヶ淵に建つ家は五軒を数えるまでになっていた。最初にケンとコウが結婚した。コウの妹であるサイと早く結婚したくて仕方がなかったソウが、本来晩生であるはずのケンをせっついたのは間違いなかった。程なく、ソウとサイも所帯を持った。今回のラウトとハナの結婚をもって、龍ヶ淵で暮らす仲間で相手のいないのは、ケンの弟であるシュウと、僕だけになった。
「リョウ、テラを迎えに行かないのか?」
度々ソウから声を掛けられた。テラの弟として、自分達の事以上に姉の先行きが心配なのだった。
「迎えも何も、テラとはなんの約束もしていないし」
僕はそう答えるしかなかった。大陸でクレからもらった剣と同等以上の物を造り上げない限り、如何ともし難い。
「別に剣ができなくても、今まで造った器具だけでも、村の人達は充分納得してくれるのではないかな」
濫造品の剣を手初めてとして、矢に付ける鏃、肉を割く包丁、地面を掘る鍬などを僕らは既に完成していた。いくつかを村人に見せて、それなりの手ごたえは確かに感じていたのだった。だが、テラの父親を中心とした一部の人達は、あくまでも丈夫な剣の完成以外認めないとの態度を示していたのだった。
「姉ちゃん、いつまで待っていられるのか、わからないぞ。母ちゃんが嫁に出そうと目論んでいるらしいからな」
ソウの言葉に胸が震えて、背筋に冷たい汗が流れた。木を切り倒す為に造った鉄製のこぎりの歯を研ぎながら、僕はソウの目を見返すことさえできない自分を情けなく感じていた。
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その晩、僕らは一番広い家に集まった。故郷の島との往復の中で、ラウトが耳にした噂を皆に話してもらうことになったのだ。秋にソウとシュウが力を合わせて狩った猪の肉。冬の食料として燻製にしていたものを保存穴から取り出し芋や茸などと一緒に煮込んだものが、器に入って皆の前に並んだ。コウとサイの作る料理は、すっかり山の生活者のものとなっていた。
「コロは元気だったよ。かなり歳をとったけれどね」
最初の報告は、そもそもの始まりから番犬として僕らと旅を共にしたコロの話だった。コロの事を知らないコウとサイに、僕らは離され島での出来事を話して聞かせた。自然と話は三人組の海賊、ガリ、ポンチョ、そして、リキの話になった。
「鉄炉で私達を助けてくれたリキさん達とそんな事があったのね」
離され島で起きた海賊事件は、コウとサイを驚かせるに充分だった。ラウトが言うには、リキ達はラウトの島にも何度か現れたらしいとのことだった。だが、悪いことは特にせず、大陸での出来事の噂話と水や食料を交換するようにして、すぐにいなくなったようだった。
「王が倒された後の大陸はいくつもの国が乱立して、今も大混乱が続いているようだよ」
ラウトが言った。僕らは大陸の兵が持つ剣の威力を知っている。一方が強い剣を造れば、他方も同じように強い武器を持たざるを得ない。戦えば、徹底的に相手を打ちのめそうとするだろう。大陸の大混乱が引き起こす惨状を考えると、温かい猪汁を食べているにも関わらず、背筋が凍る思いがした。
「クレはどうしているのかな?」
ソウがラウトに尋ねるようにつぶやいた。
「クレは大陸を逃れたらしい。どうも、僕らが帰路立ち寄った、やたらめったら広い島に渡ったようなんだよ」
ラウトの話を聞いて、僕とケンは顔を見合わせた。
「広い島って、ナゴと会った島のことかい?」
ケンが尋ねると、ラウトはゆっくりうなずいた。
「圧倒的な数の差に、戦いにすらならなかったらしいよ」
誰一人、猪汁を食べる手を進めることなく、ラウトの話に聞き入った。
「海岸沿いに度々見張りが立っているから、僕とハナはナゴのいる島には立ち寄ることができなかった」
話の最後にラウトは深くため息をついた。大変なことではあった。だが、このところ現れていたもやもやとした思いが、僕の心の中から消えていくのを感じていた。
「その話からすると、クレの兵達は、その島を出て、いつの日か僕らのこの土地に攻めてくるかもしれないという事だね?」
僕はラウトに行った。
「そう考えておいた方が良さそうだね」
横からケンが言った。
「ということは、僕らは彼らの謹製剣と同じか、それを超える物をやはり造らねばならない訳だ」
僕は皆の顔を見回した。強い剣を造る理由を見つけられないことを言い訳にして、剣造りから逃げていた自分に向けての言葉だった。ケンがうなずき、ソウ、ラウト、シュウが続いた。コウ、サイ、ハナはただ黙ってこちらを見つめていた。
「やるしかない」
顔を上げて僕は言った。
つづく
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離され島冒険記 (冒険小説)
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