離され島冒険記第三部「国興」b-4鍛鉄3

離され島冒険記第三部「国興」

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天の龍、すなわち流星が落ちた場所。昼過ぎにその場所に辿り着いた僕らは、初めて来たときに比べて、川に抉られた穴がすっかり広く深くなっていることに驚いた。龍ヶ淵。その場所のことを僕らはそう名付けた。龍が淵の奥底には砂鉄が眠っているのだ。価値あるものに付ける名前としては申し分ないと僕らは考えた。そして、水中深い場所に砂鉄があることで、泳ぎ慣れた僕らにしか取り出すことができず、決して盗まれることがない。好都合とは正しくこのことだと僕らは手を取り合って喜んだ。一休みした後、それぞれ決めた役割の為に作業を開始した。ケンの弟妹、二人はそれぞれシュウとハナいう名だ。夕食の為の魚釣りを二人に任せた。コウとサイには、薪拾いを頼んだ。僕、ケン、ソウ、そしてラウトは家を建てるための作業を開始した。僕らは全部で八人だ。相談した結果、全員が入れる大きな家を建てるよりも、こじんまりとした家を2軒建てることに決まった。仮にどちらかに問題が起きて住めなくなったとしても、もう一つ家があれば、一時的に避難することもできる。何よりも、大きな家を建てようとするほど、強さを保つのが難しくなる。小さな家を丈夫に建てよう。その点で全員の意見が一致した。家を建てる方法として、ケンがびっくりする案を出してきた。その案とは立っている木をそのまま柱にしてはどうかという見たことも聞いたこともないものだった。確かに、切り出した材木で柱を立てるには、大きな穴をほって周囲の土を固める必要がある。立っている木をそのまま柱にするのであれば、邪魔になる枝を落としさえすればそのままで良いのだ。ただし、普通の家であれば、冬の風除けのために地面を掘り下げるところ、この建て方だと木の根っこが邪魔になり地面そのままの床になる。平らでないと落ち着かないとの意見がソウから出たが、逆に盛り土で平らにしてはどうかとのケンの意見が採用された。もう一つ、座っている時に邪魔にならないくらいの高さに網を張って、その上でくつろぐというのはどうかという案がラウトから出た。思い返してみれば、星見の塔も途中に木を渡して休む場所にしていたのだ。早速やってみることにした。村の中のように失敗しても誰に馬鹿にされるわけでもない。だめならやり直せば良い。そんな気楽な気持ちで作業は始まった。

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先ずは場所の選定だ。出来るだけ真直ぐに立っていて、しかも四角く等間隔に並ぶ四本の木を選ぶ。真直ぐ立っている木となると自ずと栗の木になる。硬く丈夫なので、家の柱として最適と言えた。四本の木の内側に生えている幼木や草を取り除き、僕らの背丈を超える高さの木は引っこ抜いて横に渡す材木として使う。骨組みが出来たら、干した木の皮で周囲を覆う。そして少しずつ土を被せていき、すき間風が入らないようにする。内部の中央には炉を造り、その真上は煙が外に逃げるように煙道を儲ける。そこから雨が降りこまないよう、煙道を覆うように二段屋根を掛ける。煙は一段目と二段目の屋根のすき間から外に出て行ってくれた。途中に張る網は、数日かけてコウとサイが編んでくれた。僕らが上がっても平気なほど丈夫な仕上がりに驚いた。テラからやり方を教わったのだと、はにかみながらコウは言った。

家が完成したら、次は炭焼き小屋作りにかかる。これについては僕とケンが担当することになった。炭の原料となる木材集めはソウが中心となり、その他の全員が加わった。鉄作りには大量の炭が必要だ。その為、木材も多ければ多い方が良い。だが、ここで僕らは考えた。大陸で鉄作りをすることとなった鉄炉は、最初に森の近くに作られ、周囲の木が無くなると川下への移動を繰り返したというのだ。僕らがいた時期の鉄炉でも上流側には一切木が生えておらず、ただ、黄色い砂漠が続いている殺風景な土地だった。あのような土地になってしまっては、その後、獲物を狩ることはできなくなる。森が、そして、森から得られる食料が無くなっては、例え鉄が作れるようになっても村として存続していくのは難しい。話し合いの結果、育ちやすい松類を中心に木材を集めようと決まった。その他の木については、倒木や折れた枝だけを利用することにしたのだった。僕らは時に海に近い所まで移動して、炭を焼いた。木材を運んで龍ヶ淵で炭を焼くよりも、松の木が群生する場所に炭焼き小屋を造った方が、かえって手がかからないことに気が付いたからだった。早く鉄を作りたい僕らとしては、気の遠くなるほど大変な作業だった。夏の間にしなければならないこととしては、鉄材集めがあった。以前、拾っておいた流星の残骸を除けば、砂鉄が主な材料であり、それは龍ヶ淵の底に沈んでいるからだった。川の水が温かい内に作業は進められ、最も泳ぎの得意なラウトが大活躍したのだった。そのようにして季節が過ぎていった。

ふと、肩に冷たいものを感じて僕は手のひらを広げた。その上に雪が止まり、すぐに水になった。空を見上げると、どんよりとした雲が低く垂れ込めている。

「リョウ、炭も充分に集まった。そろそろ砂鉄を溶かすことを始めよう」

肩を並べて歩いていたケンが、立ち止まって言った。急に吹き始めた寒風にも関わらず、頬が熱くなるのを僕は感じた。

つづく

離され島冒険記第三部「国興」b-5鍛鉄4

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