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「くれぐれも目立たないようにな」
リキは言った。ソウは無言でうなずいて出口に向かって歩き出した。その手には布をまいた棒状のものが握られていた。向かう先はコウ、サイ、そしてテラのいる厨房だ。三人を先導する責任を背負ったソウは、いつになく緊張感のある表情となっていた。
ポンチョが船から投げた箱には二本の剣が入っていた。一本はもちろんリキが使う。
「ソウ、三人の中でお前が一番強い。これはお前が持て」
リキはソウに残った一本の剣を手渡した。突然の話に、ソウは驚いてリキの方を振り返った。コウやサイと仲良くできることに満足していて、鉄炉から逃亡することに懐疑的だったソウ。今夜もまるで自分は関係ないとでも言うように横を向いていた。リキから布に包まれた剣が手渡された。しばし重さに戸惑いを見せたものの、大事な剣を託されたことでソウの頬はほのかに紅潮していた。そうして、リキを真直ぐ見返す目にこれまでと違う輝きが生まれた。
「二人の姉妹とテラはお前が先導しろ。普段一緒に行動している人間の方が他人の目を引かなくて良い」
リキの話にソウはうなずいた。確かに夕食後いつも厨房に遊びに行くソウが、先導役に最適なのは明らかだった。
「台地の上にガリがいる。松明を持って上に行けば、向こうの方が先に見つけてくれるさ」
リキの計画はこうだ。女の子を先導するソウ、ケンとラウトを率いる僕、そしてリキの三手に別れて、それぞれが台地に上がる階段に向かう。階段を警備する兵をリキが引き付ける。その隙に、最初にソウ達、次に僕ら、最後にリキが階段を上がり、ガリと合流する。そのまま川下に向かうとポンチョが乗っている奴隷船が待っているので、それに乗り込んで鉄炉を後にするということだ。船にも兵が乗っているはずだと言うと、既に話がついているという。
「奴らも所詮は雇われ兵だ。ここにいる兵長にさえバレなければ大丈夫だと太鼓判を押していたよ」
驚く僕らにリキは続けて言った。
「そもそもここに来るのが遅くなったのは、兵を手なずけるためだったのさ。何度も酒や飯をご馳走したのだぞ」
にやりと笑ってリキは片目をつむった。
「階段を警備している兵は二人だよ。リキ一人で大丈夫なの?」
「まあなんとかなるだろう」
僕の問いにリキは鼻から息をはいた。
食事が済んで、白黒勝負に行くもの、早々と寝てしまう者、周囲が次第に静かになっていった。
「そろそろ行くか」
リキが言った。ソウが真先に厨房に向かう。ケン、そして僕は同時にうなずいて立ち上がった。ラウトだけが相変わらずうつろな表情をしたまま、そんな僕らをただ見上げていた。ラウトの手を取って身体を引き揚げ、ソウに続いて僕らも出口に向かうべく歩き出した。後ろからリキの声がした。
「おい、階段の入り口だけは必ず何とかする。だから、万が一俺に何かあっても気にするな。かまわず行けよ」
ソウの背中がぴくりと動いたが、そのまま出ていった。僕とケンはリキの方を振り返った。そこにはいつになく静かなたたずまいのリキがいた。
つづく
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離され島冒険記 (冒険小説)
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