離され島冒険記第二部「大陸へ」1-5.

離され島冒険記第二部「大陸へ」

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夕食後、僕らはラウトの住まいに向かった。村に帰りたい気持ちをラウトのお父さんに伝え、もう少し待てと言う意味を聞いてみようと考えたのだった。ラウトのお父さんが待てと言うのならば待った方が良い理由があるのだろうと、ケンと僕は考えた。だが、理由を聞きたいと言うテラの気持ちもその通りで、僕らの足は揃って入り口の前に立ったのだった。

ラウトとお父さんは夕食を終えていて、相変わらず道具の手入れに精を出していた。ラウトの家にはお母さんはいないのだった。意外にもラウトとお父さんは笑顔で僕らを迎えてくれた。そして、二人の話は簡単だった。

「台風が来るのだよ」

ラウトが言った。

「台風?それ何?凄く怖い海の生き物か何か?」

ソウの質問に二人は笑い転げた。

「ある意味そうかもしれないな。夏のこの時期は度々大嵐が来るのだ。風の固まりがまるで生きているかのように襲ってくるのだ。それを私達は台風と呼び、夏の間は海で遠出はしないのだ」

ラウトのお父さんは笑いをこらえながら教えてくれた。言われてみれば、僕ら山の村でも夏になると嵐が度々来ていた。あれが海の上だったらと思うと確かに恐ろしい。

「夏が終わったら嵐は来ないのですか?」

黙って聞いていたテラがふいに言った。

ラウトのお父さんは少し困った顔になった。

「いや、冬は冬で北から寒い風が吹く。台風ほどではないが、嵐もやってくるのだ」

「北風が吹くという事は、北に帰る僕らは海の上で逆風にさらされることになります。南からの風が吹いている今の内の方が、村に帰るには良い時期のようにも思えます」

ラウト達の目を見比べながら、ケンが冷静に二人に言った。

「そうとも言える。だが…」

ラウトのお父さんは返事に困っていた。

「冬の冷たい海よりも夏の暖かい海の方が、仮に海に落ちたとしても助かりやすいようにも思います」

ケンに続いて僕も考えを言った。

「うん、そう言われればそうなのだが…」

僕は他の三人を代わるがわる見た。テラが、続いてケンが頷いた。

「リョウ、夏でも冬でも大変なのはどちらでも一緒だ。それなら行こうよ!」

ソウが言った。

「お世話になりました」

僕はラウトとお父さんに深々と頭を下げた。

 

翌日は出発の準備に一日が終わった。犬のコロは島内の家族にもらってもらうことにした。以前海の上で、走り回る場所がないコロがかわいそうだったためだ。ヤギについてもお世話になったお礼としてラウト親子にあげることにした。島に元々いたヤギとかけ合わせれば、強い子を産んでくれることだろう。食料として乳が飲めなくなるのが多少不安だったが、海の上で魚が獲れることで心配ないと判断したのだった。

その次の朝、泊めさせてもらっていた小屋の掃除が終わると、僕らは海岸に向かい繋いでいた筏に乗り込んだ。コロとヤギがいない分、筏の広さには余裕が感じられた。

見送りに来てくれたラウト親子と島の人達に僕らは別れの挨拶をした。一番友達が多くできたソウは、周りを仲間に囲まれて特に別れが辛そうだった。

「危ないと感じたらすぐに戻ってくるのだよ」

ラウトのお父さんが言った。

「はい、ありがとうございます。村に戻ったらいつかまたこの島に来たいと思っています」

4人を代表して僕が挨拶した。岩に結んでいた綱をほどくとケンとソウが櫓を漕ぎだした。

筏がゆっくり沖に進みだした。岸辺にいたコロが僕らに向かって吠える。

「連れて行け!」

コロはそう言っているようだった。僕らはコロの方を見ないようにした。筏の底が岩に触れない場所まで来たことを確認すると、僕らは帆を揚げた。筏の進みは一気に早まった。僕らは海岸に立つ人達にもう一度向き直った。とその時、ラウトが突然走り出すと、海に飛び込んで泳ぎだした。ラウトは息継ぎすることもなく泳いでくると筏の縁に手をかけた。僕とソウは慌ててラウトを筏に引き揚げた。ラウトは海岸に向き直ると言った。

「父さん、僕も彼らと行ってみるよ!山の生活が、彼らの村が見たいのだ。必ず戻るから心配しないで!」

ラウトのお父さんは予期していたのか、困った顔をして頭を掻いているだけで平然としていた。ソウと仲良しになっていた男の子達数人も我先にと後を追って一斉に走り出そうとしたが、それぞれ親御さんに止められていた。

「ラウト、一緒に行けるのだね!」

ソウが嬉しそうに言う。

「ラウト、大丈夫なのか?」

僕は心配になって訊ねた。

「うん。まだまだ海に詳しいのは僕だと思うのだ。一緒に行かせてくれよ」

ラウトは笑顔で答えてくれた。

「ありがとう」

テラがラウトを後ろから抱きしめた。ラウトは照れ臭そうに、しきりとテラの腕を振りほどこうとしている。

ケンは少し困った顔をしていたが、それでも嬉しさは隠せずにいた。作晩も方角を決める難しさについて不安を隠せずにいたからだった。僕らにとって心強い水先案内人が旅を共にしてくれることになったのだ。一瞬だけお互いの目を見つめると、僕らは一斉に進行方向を見た。僕は言った。

「さあ、出発だ!」

つづく

離され島冒険記第二部「大陸へ」1-6.

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