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「私は私達の村に帰りたい。例え冬の生活が大変でも家族がいる。仲間もいる。皆私達のことを心配しているはずよ」
テラの真剣なまなざしに一瞬全員が息を飲んだ。こんな時に最初に話し出すのは決まってソウだ。
「お姉ちゃんが帰りたいのはわかるよ。まあ村の皆に元気な顔を見せたいよね。それに魚獲りも弓もこんなに上手くなったのだから腕を見せたいよな。いいよ、帰ろう」
いつも頭が上がらなかったテラに対して、珍しくソウが強気に返すのが頼もしい。成長を感じるこの頃だった。そして、この島での生活を一番楽しんでいるソウが帰る気になったのだ。この機会は逃すべきでない。
「ケンはどう思う?別れ別れになった男衆や村で心配しているであろう家族の為にも、なるべく早く帰る方が良いように思っているのだけど」
当たり前に同意してくれるものと思っていたものの、返ってきた言葉は少々当てが外れていた。
「わからないな。正直言って村がここからどのくらい離れているのか、途中に危険がないのか、僕らは何も知らないからね」
目の前に横たわる見えない現実に四人全員が黙り込んだ。
皆の顔を見回す。どう見ても落ち込んでいる。特にテラの目の周りはほのかに赤く色付いているのがわかる。
「ケン、君がいるから海の上でも進むべき方向を間違えることはないと思うのだ。食料も魚を獲れば良い。となると、必要なのは水だけだ。慎重に一つずつ次の島へ移っていけば、いずれ村に続く陸に到着するのではないだろうか」
僕はケンに言った。
「それも間違いではないよ。できるかできないかと問われれば、できると答えることもできるのさ」
「離され島で流されている時は、嵐に会うことはあっても特別危険なことは無かったわよね?」
テラがケンに向かって言った。
「そうだね。でもリキ達海賊が乗り込んで来たことはあったよ」
確かにケンの言う通りだ。何とかなったものの、僕らは離され島でも危険な目にあってきたのだった。
「いいかな、ラウトが言うには海は概ね同じ方向に流れているらしいのだ。つまり海には目に見えない道があるということだ」
ケンが皆の目を順番に見つめながら続ける。
「この流れは強く、ちょっとやそっと漕いだくらいでは逆らうことができない。だから離され島が流されてきた道を逆に戻ることはできないのだ」
誰も口を挟まなかったのでケンは話をつづけた。
「離され島にいる時にラウトが言っていたように、今いる島をさらに超えて進んで行くと離され島がたどった海の道と逆方向に流れる海の道がある。僕らが一番楽に村に戻るにはその道にたどり着くことが必要なのだ。だが、その道には島は無い。もちろん先々何があるのか誰もわからない」
ケンの言う通りだった。僕らがやろうとしていることは知らないところに乗り込んでいくことなのだ。危険が無いなどとは誰も言えないのだった。
ふいにテラが顔を上げた。
「だから何なのよ。私達はこれまで一度だって先の見えている旅なんてしてこなかったわ。村を出るのはもちろん、草をかき分けながら進む間も、今熊と出会ったらどうしようといつも不安だった。崖を降りる時や川を下る時だって、私はいつだって怖いと思っていた。その道行きとこれからの旅に何の違いがあると言うのよ」
テラの気迫に僕ら男三人は圧倒された。
つづく
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離され島冒険記 (冒険小説)
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