離され島冒険記第三部「国興」a-6帰路2

離され島冒険記第三部「国興」

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僕らは海岸沿いにひたすら北に向かった。午後になって河口が見つかると、その日の野営地をそこに決めて、筏を岸に着けた。移動しながらラウトが魚を獲っていたため、夕食には困らない。岩場で海藻と貝を拾えば、食べ物の味も美味しくなる。必要な物は飲み水だ。川に沿って山を登って行けば、いずれ湧水地が見つかる。見たところ、この土地は海岸のわずかな平地を除くと山が多い。飲み水として問題のない綺麗な水が手に入る場所を見つけることは、それほど大変ではなさそうだ。僕とケンが水当番となって出かけようと決めかけたところで、ソウが一緒に行くと言い出した。

「せっかく陸に来たのだ。皆、たまには肉を食べたいだろう?」

山に入って狩りをしたいと言うのだ。鉄炉では、米がゆとわずかな魚。その後の海の上でも当然のことながら魚しか食べる物がなかった。久しぶりに肉を食べたいというその気持ちは良くわかる。しかし、知らない土地で女の子達三人とラウトだけ残して出かけるのは危険に思える。擦った揉んだした挙句、ソウとケンが水汲みと狩りをしに出掛けて、僕、ラウト、テラ、そして、コウとサイ姉妹が残って野営の準備をすることにした。準備と言っても、海岸には乾いた木切れが豊富で、しかも、燃えやすい松の小枝も転がっている。火起こしにはそれほど、手間取らなかった。それよりも、海を渡る間に汚れてしまった衣の洗濯に骨が折れた。先ず、川を上って水を軽く口に含み、塩味がしないかどうか確かめる。流れが緩やかな川であれば、相当先まで塩味がするところだが、幸いなことにこの川は急峻で、わずかな移動をするだけで真水に変わった。一旦衣を着たまま水に飛び込んで自らの身体を洗う。それが済んだら着続けてきた衣を脱ぎ、手頃な丸い石でごしごしこすって汚れを落とす。中々汚れが落ちない。明日になったら薪の灰を付けて洗いなおそう。そうすれば、もう少し汚れも落ちるだろう。そんなことを思いながらの洗濯作業となった。そのように考え続けることで女の子達の洗濯姿に意識がいかないように、僕は気を紛らわせたのだった。

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洗濯、食材採取、夕食の仕度が終わり、日も沈み始めた。焚火の周囲に皆で腰かけてほっと一息、この辺りの様子が気になりだした時だった。ソウとケンが走って戻って来た。

「リョウ!人がいたよ!」

息つく間もなくソウが言った。僕は思わず立ち上がって身構えた。

「人は…、いるだろうけれど、襲われたのか?」

恐る恐る僕は訊ねた。

「襲われてはいないのだけど、怒鳴られたかな」

「怒鳴られた?何かしたのか?よその土地ではよほど気をつけないといけないよ」

「そうではない。水汲みと猟を終えた後、土地柄を見ようと二人で歩き回ったのだ。別の川を見つけて下ってみたところ、これまで見たことも無い場所に行き当たったのだ。それで、何だろうと話していたら、怪しまれたらしく、怒鳴られたということさ」

僕の問いに、ケンが割り込んで説明してくれた。

「見たことのない場所?どんなだったのさ?」

「うん、堰を造って囲んだ平らな土地があったのだ。そこに川から水が引き込まれていて、細い草が沢山生えていた」

「草?」

「うん、草だ。僕は何だろうと手を伸ばした。その時、怒鳴られたのだ。それで慌てて逃げてきたという事さ」

「追いかけてきたのかい、その怒鳴った人は?」

僕にとって一番気になる点だった。

「いや、何か重そうな道具を肩にかけていたからか、僕らが逃げるのを見てすぐ引き返して行った。ただ、その時に言われた事が気になるのだ」

「そうか、戦いにならないなら良かった。お腹がすいただろうから、とにかく食べることにしよう」

引き返したというケンの言葉にほっとして、僕は元の場所に座り焚火に小枝を足した。その時、真向かいにいたテラが冷静に尋ねる声が聞こえてきた。

「その人、何て言っていたの?」

「米どろぼう。言葉の調子が違うからはっきりとは判らなかったけれど、そう言っていたような気がする」

ソウが答えた。その言葉を聞いて僕は顔を上げた。

「米、そう言ったのかい?」

僕の問いかけにケンとソウは同時にうなずいた。鉄炉に居た頃、僕とケンは米について度々話していた。煮ることでいつでも食べられて、その上、保存がきく米。もしも、僕らの村にこれがあれば、冬越えのための、食料調達の旅をしなくて済むかもしれない。僕らが目指す村の有り方にとって大きな助けになるという話だった。

「そこに行って頼めば米が手に入りそうかい?例えば、僕らが持っている何かと交換するなどして」

僕はケンに向かって言った。

「いや、あの人の怒った様子からすれば、それは難しいと思う。それに、草にはまだ米が実っていなかったから、仮に盗むという誤解が解けたとしても、手に入れるのは難しいのではないかな」

「そうか、残念だな。米が手に入れば、村の生活を変えられるかもしれないと思ったのだけれど」

僕は落胆してうつむいた。その時だった。頭の上からソウがこう言ったのだ。

「米?米ならあるぜ」

意外な言葉に、僕は驚いてソウの顔を見上げた。ソウは衣の物入れを手でごそごそ探ると、籾をいくつか取り出した。

「ほら。俺、コウとサイに会うために調理場に出入りしていただろう。その時、床に落ちた籾を見つけることがあったのさ。米袋に戻そうとそれを拾って、そのまま忘れてしまう事が何度かあってさ」

ソウの手のひらに乗った籾は、僕らにとって今や星屑石以上の価値を持つ物だった。

「良くやったよ、ソウ」

焚火の明かりに照らされて燃えるように輝く僕の目を見て、不思議そうに首を傾げるソウだった。

つづく

離され島冒険記第三部「国興」a-7帰路3

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