離され島冒険記第三部「国興」b-2鍛鉄1

離され島冒険記第三部「国興」

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満月の晩、僕とケン、そしてソウの三人は村中の男衆が集まる会合に参加した。僕らは腰にそれぞれ剣を下げ、一方の手で星屑石を仕込んだ杖を握っていた。星屑石による冬の食料調達をやめて、鉄を村の特産にしようと、僕らは村に帰って来て以来、働きかけていたのだった。そして今夜、正式に村の衆に話す機会を得たのだった。集会所に入って腰を落ち着けると、僕は周囲を見回した。両隣に座るケンとソウは、どちらも頬を紅潮させている。大人の会合に参加するのは初めてだからだ。僕も最初はそうだったのでよくわかる。特にソウは落ち着きがなく、僕以上に周囲をきょろきょろ見回している。一応、食料調達の旅を終えて帰って来たことなるため、もしや大人の証である紋様を肩に入れてもらえるかもしれないと考えているのだ。

「どっちの肩が良いかな。リョウの時は自分で選んだの?」

「いや、気が付いたら左肩に何か塗られて、その後ぶすりっと…」

「ひえー、怖いな」

肩をすくめるソウが微笑ましい。ケンは赤い頬をしつつも、黙ってやや下の方を見ているだけだ。彼にとって大人の紋様などどうでも良く、気になることで頭が一杯なのだろう。鉄とその先の剣造りを村人が認めてくれるのかどうか。それだけがケンにとっての関心事なのだった。そして、それはそのまま僕の思いだった。

気が付くと話し合いは始まっていた。いつもなら酔っぱらう飲み物が出て男衆の声が大きくなるところ、今夜は静かに話が進んでいる。理由を探していたところ、村を離れた人々が珍しく顔を出していることに気が付いた。つまり、ソウやテラの父親を筆頭とする人々のことだ。村分裂の原因となった僕らが戻ったことで、元通りの村にしようと長達が働きかけたのだ。もしかしたら僕らがこれから話そうとしている事が、村の今後を左右するかもしれない。そう思うと、自ずと身が引き締まる思いがする。

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「リョウ達が星屑石に変わるものを見つけてきたと言う。皆、話を聞いてやってくれ」

長の声に僕らは、はっとして身を固くした。

僕は立ち上がった。ケンとソウも僕に続いて立った。

「僕らは最初、海賊から剣の存在を教わりました。そして、台風を避けて大陸へ、大陸というのは、日の沈む方に海を隔ててある大きな土地で、数えきれないほど多くの人がいる場所です」

僕は剣、そして鉄を知るきっかけから話し始めた。騙されて奴隷となった経緯などについても話しをせざるを得ず、結果として話は長くなった。僕にとってこの話は、ソウとテラが長く村に戻って来なかった理由を説明するためのものでもあったからだ。

「とにかく、一度鉄を知ったら、星屑石なんて使ってられないよ」

ソウが横から口を挟んだ。僕は冷汗をかいた。星屑石を否定するという事は、これまで培ってきた村の成り立ちそのものを否定することに成りかねない。

「ソウ、お前は黙っておれ」

ずっと黙って聞いていたソウの父親が、その時だけはソウをたしなめた。この言葉には正直に言って助けられた気がした。場合に寄っては村の男達の多くを敵に回すことになるかもしれないからだ。テラやソウが無事に戻ったことで、彼は僕らに対して良い印象を持ってくれているのかもしれない。僕はそんな風に考えながら続きを話した。

「鉄炉という剣を作る場所で、僕らは仕事を通して鉄の精製と剣造りを学びました。この極めて便利な物を星屑石に変わるものとして造っていきたいのです。大陸から鉄が、剣が入って来るのは間近です。そうしたら、もう星屑石は見向きもされないでしょう。今、始めないと間に合いません」

僕は話を締めくくった。

「皆、何か彼らに訊きたいことは無いか?」

長が皆を促した。集まった男達は顔を見合わせながらも黙っている。

「鉄がどんなに凄いものなのか、私達に見せることができるかな?」

誰も発言しないとわかると長が言った。僕はほっとした。ここまでで何の反対意見も無ければ、僕らの言う通りに事は進むはずだ。何せ、星屑石と鉄でできた剣では、強さだけを取り上げても違いが大きい。比べてみてもらえさえすれば、誰であろうと納得するしかないからだ。

「ここでは危ないので、外でご覧に入れましょう」

僕はケンとソウに目で合図をして、外に出た。満月の光で外は明るかった。男衆が外に出てきて、僕らの周囲に距離を置いて取り囲んだ。集会所の近くに住む人達も、外の騒ぎに釣られて出てきた。僕は星屑石を仕込んだ杖を構えた。そして、一番剣さばきの上手なソウに言った。

「ソウ、やってくれ」

ソウはうなずくと、大きく呼吸をして剣を一振りした。月明りの下で剣が一瞬煌めいた。甲高い音がして、星屑石は粉々に散った。

「おお!」

男達が声を上げた。そして、剣の凄さに興奮して、近くにいる者同士で口々に語り合いだした。ソウとケン、そして僕は、人々の輪の中央に駆け寄って、互いの肩を叩き合った。

「上手くいったな」

僕は言った。

「うん」

ケンとソウが笑顔でそれに答えた。

「あー皆の者、静かにして聞いてくれ。今見たように鉄という物は星屑石に比べてとても強い。しかもだ。折れても火にくべてくっつけることもできるという」

長の話に男衆達はびっくり眼になった。

「こうなれば、やはり、我々の生活に鉄を取り入れざるを得ない。わしはそう思うが、皆の者はいかがかのう?」

「おお!やろう、やろう!」

長が問いかけると、人々の口から賛同の声が上がった。僕らは自分達の意見が通ったことで、有頂天になった。

「これで紋様は確実だな」

ソウが嬉しそうに言う。彼にとっては鉄云々よりも、大人としての印である紋様の方が大事なのだ。僕とケンは目と目を合わせて苦笑した。その時だった。

「その剣とやらは、お前達が造ったのか?」

声の主はソウの父親だった。その問いに、僕の身体は雷を受けたような衝撃を憶えた。何も言えなかった。鉄炉において、僕らは確かに鉄を鍛え、剣を造った。だが、ここにある剣はクレからもらった物で、僕らが造ったのではない。それに、最上級と言えるこの剣と、僕やケンが造った物とでは、強さと丈夫さの上で、著しく差があるのだ。そう、僕らはまだ、手元にあるこの剣の造り方を本当の意味では知り得ていない。

「どうした?その剣はお前達が造ったのかと訊いておる」

ソウの父親の声は大きく、厳しかった。

「違います」

僕は答えた。途端に、それまで盛り上がっていた人々の顔に落胆の色が走った。僕らの説得に乗って話を進めてくれていた長の顔にもまた、同様の陰りが見えた。月明りの中で、人々はすっかり静かになってしまった。

「この剣そのものはまだ造れません。でも、もう少し弱い物で良いのならば、造ることができます。そして、いずれはこれと同じ強さの剣を造ってお目にかけます」

僕は必死になって言った。

「話にならないな」

ソウの父親は首を横に振った。

「その剣と同じか、それ以上に強い剣が造れるようになったなら、出直してくるのだな」

そう言うと、ソウの父親は僕らに背中を向けて去って行った。それを潮に、他の村人も三々五々その場を後にした。後に残った僕ら三人の影が、真上に昇った月明りの中で小さく揺らめいてた。

つづく

離され島冒険記第三部「国興」b-3鍛鉄2

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