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村にとって欠かすことができない冬越え食料調達の旅。その旅をしなくて済む方法を僕とケンは模索していた。やってみようと思う事の一つは鉄作りだ。星屑石の使い勝手を大きく上回る鉄で道具を作れれば、自ら旅に出なくても、欲しい人達が村にやってくるようになるのではないかと考えたのだ。だが、鉄の道具は今のところあくまで星屑石の代替品でしかない。根本的な問題として、日常的に食べられて保存しやすい食料の調達。なんといってもそれが大事なのだ。大陸の鉄炉で出会った米。それこそが村にとって理想的な食糧なのではないか。大陸から戻る海の上で、僕らは何度も話をしたのだった。今、その米作りの手がかりが目の前に現れたのだ。多少の回り道は致し方ない。僕達はそう考えた。
空が微かに白み始める頃、昨日ケンとソウが訪れたという見たこともない場所を目指して僕らは出発した。二人が言う通りならば、そこに行けば米を育てる方法がわかるかもしれない。はやる気持ちを抑えて、僕達は静かに足を進めた。
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朝靄の中、僕らはその場所についた。川に沿って段々に堰が築かれ、その中には水が引かれていた。中は僕らの歩幅で言うと、縦に一歩、横に二歩くらいの広さ毎に、やはり細い堰を設けて区切っている。そこにはススキを小さくしたような形の草が手の平程度の間隔をあけて植えられている。そこまで見て取った時だった。
「こらー!お前んがた何者だ!」
大きな声が後ろから聞こえて、僕らは驚いて飛び上がった。誰もいない時を狙ってこんなに朝早く来たのにも関わらず、こうして見つかってしまうとは。
「まさか大陸の者じゃあるめーな?」
大きな身体をした男が、こちらに向かって走りながらそう言った。慌てて逃げようとした僕らだったが、男の発した大陸と言う言葉に、ふと、立ち止まった。
「ここで何してるん?」
僕らからやや離れた所で立ち止まると男が言った。籠を背負い、手にした棒は僕らに向かって振り上げられている。
「大陸って言いましたか?」
僕は言った。男は、疑わしそうな顔でこちらを見ていたが、僕の言葉に何か違うものを感じたようだった。
「ああ、お前んがた大陸から来た奴らだっちゃ」
訝し気な顔をして男が言う。
「僕らは台風を避けて大陸に行きました。そこで騙されて奴隷になり、脱出して村に戻る途中なのです」
僕の言葉を聞いて男はぽかんとしている。
「大陸から来たことは確かですが、大陸の人間ではないのです」
男は手にした棒を降ろした。
「大陸では王が倒されて、大騒ぎとなって逃げだす人も多いと。なら、いずれここにも誰か来るかもと仲間内で話していたっち。じゃあ、お前んがたこんな朝早くから何しとん?」
「昨日、彼らに声をかけられた時に米と言っていたと聞きました。僕らは将来米を作りたいと思っているのです。それで一度見てみようという事になり…」
恐るおそる説明する僕の話に男は納得したようにうなずいた。
「うんうん、そう言うことならわかったっち。何でん教えてやるから心配するな」
笑顔で男が言った。
「本当ですか?是非お願いします!」
僕らは嬉しくなってお互いの顔を見合わせた。喜ぶ僕らを見て男も嬉しくなったらしい。朗らかな声でこう言った。
「田んぼの草が手に負えなくなっていたっち。ちょうど良かった。今日一日草取り手伝ってくれっち」
つづく
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離され島冒険記 (冒険小説)
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