スポンサーリンク
行きつ戻りつする波を見つめながら、僕らは疲れた身体で懸命に櫂を動かした。波に押されて進んだかと思うとすぐまた戻される。いずれ到着するのだとわかっているものの、じれる気持ちを抑え込むのにも苦労する。リキ達が乗る海賊船は既に海岸に乗り付けている。コウとサイは岸から手を振ってくれている。もう一人、先に着いたソウは海に飛び込んだかと思うと、僕らの筏に向かって泳いでくる。潮風によって巻き上げられた波しぶきが、火照って塩の浮いた僕らの頬を濡らす。ソウが筏に辿り着き、後ろに回ると足をばたばたさせ始めた。少しでも早く筏を岸に着けようと頑張ってくれるのだ。ケンと僕はソウに元気をもらって櫂を操り、苦労の末ようやく砂浜にたどり着いた。数日振りに目の前に現れた地面。波に洗われる白い砂に恐る恐る足を降ろし立ち上がる。砂がぎゅっと音を立てる。コウとサイがテラやケンの元に駆け寄った。僕らをここまで案内してくれたリキ、ガリ、ポンチョら三人の海賊は、自分達の船縁に腰を下ろしてこちらを見て笑っている。僕は彼らの元に駆け付けた。
スポンサーリンク
「リョウ、俺達が案内できるのはここまでだ」
僕が彼らの前に立つとリキが言った。
「村に帰るつもりはないの?若い男の力は役に立つ。ガリやポンチョだって村で受け入れてくれるはずだよ」
僕が言うと、手下の二人は互いに顔を見合わせた。しかし、リキの返事は初めから決まっていたようだった。
「俺の性には海が合っているんだ。それに騒乱が起きている今、大陸は稼ぎ時なのさ」
リキの目に迷いはなかった。
「そうか、わかった。今までありがとう」
僕は三人に深く頭を下げた。
「この海岸に沿って北に向かえ。海峡にぶつかったら向こうの土地まで渡るんだぞ。ただし、潮の流れが激しいから気をつけな。渡り終えたらその先もひたすら岸に沿って北に向かえ」
「わかった」
僕は大きくうなずくと筏で待つ仲間の方に歩み出した。
「リョウ」
リキの声を背中で聞いて、僕は立ち止まり振り返った。
「一つ言い忘れていた。お前達、鉄を手に入れて剣を作るんだよな?」
「うん、そうしたいと思っている」
僕が返事をすると、リキは少しだけ何かを思い出すように遠くを見る仕草をしてこう言った。
「天の龍、地の龍」
「え?」
リキの言葉の意味が上手く呑み込めず、僕は首を傾げた。
「鉄は龍と共にある」
リキが続けて言った。
「鉄が龍と共に…」
「そう以前耳にしたような気がするんだ」
リキの話に、僕は二つの言葉を何度か反芻した。
「ああ、一つだけ頼みたいことがあるんだ」
リキの声に我に返り、僕は再びリキを見返した。
「俺の父さんと母さんが今も元気ならば…、リキは元気でやっている、そう伝えてくれ」
微かに微笑みながらリキが言った。
「わかった。必ず伝えるよ」
僕の返事にリキは小さくうなずいた。僕は踵を返して仲間の待つ筏に向かって走り出した。一歩毎に、ぎゅっ、ぎゅっと、砂が泣く音がした。
つづく
第一部は下記リンクから。AMAZON Kindle unlimited会員様は追加料金無しでお読みいただけます。
スポンサーリンク
離され島冒険記 (冒険小説)
前話に戻る
1話に戻る
第二部最終話に戻る
第二部1話に戻る
コメント