離され島冒険記第二部「大陸へ」1-1.

離され島冒険記第二部「大陸へ」

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引き潮の時、迷い込んだ魚を狙うため息を潜めて岩陰で待つ。水中を影が動いた。瞬間、先端の星屑石が煌めいた。手にした銛を日にかざす。大きな石鯛がバタバタと暴れている。

「リョウ、やったわね」

後ろから声がかかった。リョウは振り返って返事をした。

「テラ、来てたのか。ここは岩場で難なく漁ができる。今思えば離され島では大変だったよね」

「そうだったわね。あんなに力仕事したことってなかったわ」

岩に腰かけて、テラは笑いながら言った。

「ソウは何をしているの?」

「仲良くなった子達と弓遊びに行っているわよ」

表向き笑っているように見えるけれど、その実、思い通りにいかないもどかしさがあるのだろう。テラの表情にはかすかな陰りが見えた。

「ケンは?」

「相変わらず筏を直してる。いつでも出発できるように考えているのだと思う」

「とすると、あとはラウト達次第ということだね」

テラ、ケン、ソウ、そして僕の4人は早く自分達の村に向けて出発したい気持ちで一杯だった。

 

当初村に帰る手伝いをしてくれると話してくれていたラウトとそのお父さんだったが、彼らの住む島に到着した後、ことは全く進まなくなった。ラウト達この島の人々に助けられてから既に月の満ち欠け二回りが過ぎていた。

「ずっとここに住めば良いではないか」

ラウトのお父さんやこの島の人々は度々そう口にした。確かにこの島は快適だった。魚は岩場で毎日獲れる。ほんの少し働けば自分達だけで食べるには充分な食べ物を得られるのだった。僕らの村や離され島のようにいざという時の為に食べ物を多めにとって保存するという習慣は、この島では不要だった。しかもいつでも暖かい。厳しい冬を乗り越えなければならない僕らの村とは大違いだった。以前、外海に漁に出る話をラウトから聞いていた。それは大変だと思っていたら、実際は特別な時だけだと言う。ラウトの話ではこうだ。家を建てるために人手がいる時。お嫁さんをもらうために贈り物をしなければならない時。家族の誰かが亡くなって祭りをしなければならない時。そういう時に外海まで漁に出かけて普段島周辺では手に入らない獲物を探す。

「西に向かうと大きな、とても広い陸地があってね、そこの人達は大きな貝殻をほしがるのさ。貝殻をあげると代わりにお金をくれるのだ。お嫁さんをもらう時、祭りをする時はそのお金が必要なのさ」

この話には驚かされた。僕らの村では星屑石と食べ物を交換することで冬を生き延びてきた。お金というものを介することで、重いものを運ばなくても欲しいものと交換することができる所があるというのだ。

「国というのだ。そこには王様という人々を統治する偉い人がいる。そして敵が攻めて来た時の為に国を守る軍というものもあるのだよ」

夕餉にラウトのお父さんから聞く話に僕らは驚くばかりだった。もちろんこういう話に最も興味を示すのはケンだった。

「軍には沢山人がいて、全員が剣を持っているのだってさ。ほら、リキ達が持っていた武器、憶えているだろう?」

ケンは新しい物を見たり知らない話を聞くと目を輝かして夢中になるのだ。

 

海中に沈めていた網を引き揚げる。中には獲った魚が数匹入っていた。銛で仕留めたため既に死んでいるが、腐らせない為に海水に浸していたのだった。四人分の夕食には十分な量だった。もしソウが弓で鳥を仕留めているならば、今夜もご馳走だ。

「リョウ、どうしたの?帰るわよ」

考え事をして立ち止まっていると、並んで歩いていたテラが振り返って声をかけてきた。

「僕らはいつ村に帰れるのかな?」

独り言のような僕の問いかけにテラは目を丸くした。

「何言ってるの?それを決めるのはリョウ、あなたでしょう?」

つづく

離され島冒険記第二部「大陸へ」2

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