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王の一隊が通り過ぎてからも人々の興奮は治まらなかった。大声で話す男達。寄り添い歩く男女。見たことの無い光景に僕らは戸惑うばかりだった。居たたまれない気分に皆が満たされていた。そんな中で最初にいつもの様子に戻ったのはソウだった。
「腹減った」
ソウのその一言で僕らはやっと冷静に周りを見回す気持ちになったのだった。
「何か、旨そうな匂いがしないか?」
続けて言ったソウの言葉に自分のお腹が反応するのを感じた。ラウトはもちろん、ケンやテラも同じ気持ちらしく、うなずいている。確かに良い匂いがする。周囲を見渡して初めて、細長い広場の両側に立ち並ぶ屋根と柱だけの掘立小屋の存在に僕らは気が付いた。それぞれの小屋には炉が備わっていた。忙し気に立ち回る人がいて、何かを作っている様子だ。小屋のすぐ前には人々がたむろしていて、中にいる人に声をかけては器を受けとっていた。そのまま様子を見ていると、器の中には食べ物が入っているようだ。
「ああ、王の行進見物を目当てに屋台が出ているのだね」
ラウトが言った。
「屋台?」
ソウがラウトに問い返した。
「ああ、食べ物を売っているのだよ。お金を払えば食べられるよ。食べてみたいかい?」
「食べたい、食べたい。食べてみようよ!」
ラウトの言葉にすかさずソウが返事をして、同意を求めるように僕らを見渡した。
「お金というものがいるのだろう。僕らはもっていないから無理だよ。筏に戻って魚を食べることにしようよ」
僕はソウをたしなめて、ラウトに同意を求めた。しかし、ラウトの返事は思ってもいないものだった。
「島を出る時に獲ってきた貝殻をお金と交換できると思うのだ。皆がここの食べ物を食べてみたいなら、お金を調達してくるよ」
ケン、テラ、僕は顔を見合わせた。
「やった!ラウト、ありがとう!」
いつもの通りソウが即座に反応した。気忙しくラウトの肩をつかんで揺さぶりながら何度も頼んでいる。
「ソウ!無理言わないの!」
テラがソウを注意したが、ラウトがテラの言葉を遮ってソウに助け舟を出した。
「テラ、大丈夫だよ。筏に戻って貝殻を取ってくる。お金に交換できる所を探すから少しの間待っていて」
彼がそういう以上反対する理由もなく、僕らはお願いすることにした。ラウトは僕らにここを動かないようにと言って、筏に戻って行った。
ラウトを待つ段になって、僕らは自分達がとても疲れていることに気が付いた。そうかと言って座って休むには人が多すぎる。僕らは手持ち無沙汰であるものの、何をするあてもなくラウトを待った。僕とケン、テラは言われた通りにその場でたたずんでいたものの、ソウはあちこちの屋台を見て回っていた。そして、行く先々でラウトから習ったわずかの言葉を使って屋台にいる人に話しかけていた。
「ごめんなさいね。ソウがまた無理を言って」
テラがケンと僕に向かって謝った。僕らは問題ないというように手を振りながら答えた。
「仕方がないよ。台風から逃れようとして、食べる物も食べずに頑張ってきたからね」
僕が返事をしている時にソウが慌てて戻ってきた。
「ねえ、何か食べさせてくれるみたいだよ!」
ソウはテラの手を引いて遠くに見える屋台に連れて行こうとした。
「ちょっと!ラウトが戻ってくるまでここにいる約束でしょう」
テラがしかるとソウは我慢できないというように首を振った。
「食べたらすぐ戻ってくれば大丈夫だよ。それにラウトの貝殻を使わなくて済むのだからさ」
ある意味ソウの言う通りだった。ここの食べ物に対する興味と空腹さえ収まってしまえば、ラウトに迷惑をかけることもないのだ。
「とりあえず、行くだけいってみようか。見るだけなら問題ないだろう」
僕はケンとテラに言った。しぶしぶ同意するテラを連れて、僕らはソウの話す屋台に向かった。ラウトと約束した場所とは離れているものの、注意していればラウトが戻るのも充分に見つけられる所にその屋台はあった。他の屋台に比べると食べている人が少ない気がした。ソウとの間に予め話がついていたのか、僕らが行くと屋台にいた人がソウに笑いかけ、それぞれに器を渡してくれた。器の中をのぞき込むと、見たことの無い粒々した物に美味しそうな匂いのする汁がかかっている。湯気が立っているところを見ると熱そうだ。ソウは器に付いてきた匙には目もくれず、器に口をつけてすぐさま食べ物を口に運んだ。
「あっちっち」
予想通りソウはしかめ面をした。
「でも旨い」
ソウは中の食べ物を匙ですくうとふーっと息を吹きかけ、再び口に運ぶ。その様子にあっけにとられたものの好奇心には打ち勝てず、僕はソウと同じように匙ですくって口に入れてみた。
「美味しい」
最初にテラが感想を言った。慎重に食べ物を口に運んでいたケンも、納得するように首を縦に振った。改めてお腹が空いていることに気が付いて、その後僕らは夢中になって食べ物を口に運んだのだった。その様子を見る屋台の人の目に怪しい光が宿っていることに、僕らは誰一人気が付くことはなかった。
つづく
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