離され島冒険記第三部「国興」b-3鍛鉄2

離され島冒険記第三部「国興」

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「父さん、自分達だけでやってみるよ」

炉の向こうで星屑石を打ち掻いている父に僕は言った。

「そうだな、やってみることだな」

父は手元を見ながら言った。母は用事があると言って外に出て行っていた。この間の会合の結果から、僕が村を離れることを母なりに感じていたのだろう。せっかく戻って来た息子が、また出て行ってしまう。辛い思いをさせるのはわかっている。でも、何もしないまま、村の衰退を待つことなど僕には出来なかった。

毎晩のように、夜になると僕らは星を見る塔に集まった。そして、仲間内で、つまり、ケン、ソウ、ラウト、そして、コウとサイ姉妹と何度も話しをした。やらなければならない事はただ二つだった。一つは、村人を納得させる剣を造り上げること。もう一つは、冬の食料を手に入れる手段を見つけることだ。この二つを達成しなければ、村に先はない。

「先ず剣だな」

ソウが言った。皆がうなずいた。

「鉄炉では、僕は何もしていない。だから炭を焼くための木材集めとかしかできない。それでも良ければ一緒にやらせてほしい」

ラウトが言ってくれた。

「食べ物を集めたりとか、皆の身の周りのお世話とか、この村に来て教わったことしかできないけれど…、でも、私達にできることなら何だってやるわ」

コウがサイと目を合わせながらそう言った。ずいぶん村の言葉が上達したものだ。どこまでも僕達について来てくれる気持ちなのだろう。

「鉄がある所でしか剣造りはできない。当分村を離れることになるけれど、大丈夫かい?」

改めて、僕は皆の覚悟を問うた。

「うん」

「やろう」

「大丈夫」

「何とかなるよ」

皆の気持ちを確かめた後、僕はずっと黙って聞いていたケンの方を見た。ケンと僕は同じ考えだと思っているものの、心のどこかに確信しきれない所があった。

「やるしかない。いや、やってみたい。皆、力を貸してほしい」

ケンが顔を上げて言った。気持ちが高揚してくるのを僕は感じた。

「よし。明後日の朝、ここに集まろう。二つの龍が出会ったあの場所が、僕らの行くべき場所だ」

僕らは決意した。

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晴れ渡った空の下、僕らは龍の場所に向かって出発した。ケンは弟と妹も連れてやってきた。

「食べ物や木の枝集め位はできるから」

ケンは言った。ケンの両親が応援してくれている証拠でもあった。これはとても心強いことだ。

「俺が狩りの仕方を教えてやるよ」

ソウが弓矢を高く掲げて言った。ケンの妹と仲良くなっていたラウトも嬉しそうだった。

龍の場所。それは、空から落ちてきた鉄と、それをきっかけに川の水に土が洗われて砂鉄が表出しているのを発見した土地だった。川が流れているので水と魚の心配は無い。ただし、熊や猪に襲われないように丈夫な住処をこしらえることから始めなければならない。それが僕らの最初の仕事なのだ。不安はある。それと共に、新たな挑戦が始まることに興奮を抑えることができず、僕の歩みは自然と早くなってしまっていた。

「おいおい、リョウ。早すぎるぞ。コウとサイや、ケンの妹もいるのだからな」

後ろからソウが声をかけてきた。

「ごめんごめん、つい急いでしまって」

僕は振り返って言った。その時、これまでの旅と違うものを僕は感じた。視線の先にテラがいないことに今更ながら気が付いたのだ。胸にぽっかりと穴が開いたような、そんな気分に囚われた。目の前の風景が輝きを失ってぼんやりとして見えた。ため息が漏れて、前に進む気力を絞り出すのに苦労する。仕方なく、足元だけを見て一歩ずつ無理やり力を込めて歩く。ふと、誰かの手が肩に置かれたことに気が付いた。隣を見ると、いつの間にかそこにはケンがいた。

「前を向いて行こう」

ケンは言った。

つづく

離され島冒険記第三部「国興」b-4鍛鉄3

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