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「ちょっと待ってて!」
大きく息を吸い込むと、ラウトは海に飛び込んだ。そしてそのまま、海の底に潜っていった。これがラウトの凄いところだ。山育ちの僕らは、泳げるようになったといっても海面で手をばちゃばちゃやって進むのが精一杯。ラウトはこの澄んだ海ですら姿がかすむほど深くまで潜って、貝や海老を採ってくるのだ。
「ぷはー!」ラウトの顔が海面に出てきた。海老と大きな貝を筏に置くと、
「食べていて良いよ!あ、でも貝殻に傷がつかないようにね。捨ててはだめだよ」
そう言ってまた潜っていった。僕らはあっけにとられて顔を見合わせた。
「いっただっきまーす!」
ソウが早速海老の殻を剥いたかと思うと、魚醤に付けて食べ始めた。
「ちょっとソウ!さっき食べたばかりでしょう!」
テラはソウの肩を軽くたたいて、これ以上食べられてしまわないように残りを炊事場に持っていった。そして上手に貝を開くと綺麗に実をとって、干し貝を作り始めた。残った貝殻は海水に付けて綺麗に汚れを取り除き、平たく並べて乾かした。その後数度に渡ってラウトは海に潜り、大きな貝を筏に積み上げたのだった。
「待たせたね」
ようやく筏に上がってくると、手にした貝を器用に開いて自ら食べ始めた。
「急にどうしたの?」
僕は素潜りを終えたラウトに聞いた。ラウトは北を指さして話し始めた。
「このまま北に進んで島々を抜けると、煙が昇る山のある広い島があるのだ。その辺りの村や、西にある大きな陸の人達はこの貝殻を欲しがるのだよ」
途中からは西を指さしてラウトは言った。
「僕らは時々陸に上がって水を手に入れなければならないだろう。そんな時にこの貝殻が役に立つと思うのだ」
ラウトの言葉に僕とケンはうなずくしかなかった。
「そこの人達は貝殻を何に使うのだい?」
ケンが興味深気にたずねた。
「貝輪にするのさ。真ん中に穴を空けて、手下を連れた偉い人達が祭りの度に腕に付けるのさ。ほら、貝殻の内側はきらきら光るだろう。この輝きが良いのだってさ」
ラウトが答えた。
「手下?」
僕とケンは同時に言って、首を傾げた。
「偉い人って、例えばガリやポンチョを連れたリキのような人のことかい?」
僕は更に質問を繰り返した。
「もっとずっと沢山の、数えきれないほどの手下を連れているのさ。特に西の大きな陸では時々戦いが起こるからね。敵が来るのを警戒したり、戦うだけのために沢山人がいるのだよ。兵士って言ったかな。なにせそこには顔つきも肌の色も、言葉だって違う沢山の人達がいるからね。何かと揉め事も起こるのさ」
「兵士…」
ラウトの話に僕らは驚くばかりだった。でも考えてみれば、星屑石を守る僕らの村だって、余所者が来れば男衆が警戒して、村境に数人で立ち塞がるのだ。そこら中に違う言葉を話し違う習俗を持つ村があれば、いさかいも起こるのもわかる気がする。そういえば、今でこそお互いに不自由なくやり取りできるものの、僕らとラウトが出会った時も初めは言葉がわからなくて困ったものだった。
「ラウト、煙の山や大きな陸は結構遠いだろう?何度か行ったことがあるの?」
ケンの質問にラウトはうなずいた。
「うん、僕らの島では家族が亡くなると村中の人に祈ってもらわなければならないのだ。その時は亡くなった人や祈りをささげてくれる婆様に捧げる特別なものが必要になる。多くの人が来るから食べ物も沢山用意しなければならない。それで大きな陸や煙の山まで貝を持って行って、必要な物と交換してくるのさ」
僕らはラウトにお母さんがいないことを思い出してうつむいた。
「君達と出会う前に僕は大きな陸に行ったのだ。その時にちょうど、沢山の兵士が並んで歩くのを見たのだよ。皆、腰にリキが持っていたような剣を下げていた。凄かったな」
ラウトの笑顔が胸に刺さった。
「怖いわね」
ラウトの話を聞いてテラが言った。
「へっちゃらさ。僕はこれから向かう煙の島や大きな陸の言葉も少しは話せる。水をもらうだけならわけないよ」
ラウトは笑顔で返事をした。
「その言葉って、僕らでも話せるのかな?」
ケンがラウトに質問した。
「大丈夫だと思うよ。僕の島と似た言葉も結構あるからね。ほしいとか、食べたいとか、飲みたいとか、簡単な言葉を教えてあげるよ」
ラウトの言葉に僕らはほっとした。
「さて、漁も終わったし、帆を揚げて早く行こうよ」
ラウトが立ち上がり、僕らもそれに従って帆柱に駆け寄った。ラウトが西の海を眺めて言った。
「北に向かう潮の流れが見つかるまで、とにかく西に進むのだ。昼までには潮に乗りたいからね」
少しずつ僕らの村に近づいているのだと、僕らは自然に笑顔になった。特にテラはいつになく上機嫌だった。
その頃の僕らは、秘かに暗雲が忍び寄って来ていることに未だ気がついていなかったのだった。
つづく
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